■博士論文『木造技術史からみる錦帯橋の技術と伝承』任 叢叢 (公開日2017-10-20)を見た。努力されているとは思う。
しかし、唖然としたのも事実である。錦帯橋をもっともっと見つめて欲しい。特に類いまれなる錦帯橋の構造アーチ全体と意匠設計にまで、もっともっと踏み込んで欲しいと思った。
■本論文では錦帯橋が円弧で設計されていると結論されていた。それを概略まとめると次のようになる。当時の寺社建築の屋根等が円弧を使用して作られているので、錦帯橋もそうであろう、と言うことである。また、平成の架替でたまたま円弧が採用されたが、それを追認する形で論文は進められている。
■果たしてそうであろうか?実際の錦帯橋の構造アーチは中央部から左右になだらかに下がってゆくが、次第にその構造アーチの厚みは増している。すなわちこれが、理にかなった安定感と優美さを与えている。
■この構造アーチの上端は一つの円弧で近似できても、下端のアーチは一つの円弧では到底近似できない。現に平成の架替では構造アーチ下端の設計原理が理解されておらず、現橋に矛盾が生じている。
■しかし、この論文はこれには全く触れていない。錦帯橋は前代未聞の設計原理を持っているからこそ世界に誇れる橋なのである。錦帯橋のアーチをカテナリーだと考えれば、これはすべて解決できる。
■最後にびっくりしたことを本論文から引用しておく
『一方、錦帯橋の曲線はカテナリー線という説もあるが、伝統的建築物ではカテナリー線を利用した記述や、設計図、実例が見られていない。』P55 6行目
■著者は錦帯橋が伝統的建築物をはるかに凌駕したものとは見えないのだろうか。それを探求するのが本来の学位論文と考える。せっかくの研究である。構造アーチ下端の曲線の解析に取組んでいただきたい。